読書記録『学校図書館の教育力を活かす』

「おそらく学校図書館に関するまとまった執筆はもうこれが最後になるだろうと思う。」(はじめに)

日本図書館協会理事長塩見昇氏による(本人の言を借りるなら)おそらく最後となる学校図書館関係の著作である。事実上の日本公共図書館協会と揶揄されがちなJLAの理事長の座にありながら、学校図書館界での学校司書からの評判は頗る良かった塩見氏。実際学校図書館史をはじめとした氏の著作は研究の蓄積が少ないとされる学図界において貴重なもので、塩見氏の執筆からの引退は学校図書館関係者にとって大きなダメージだろう。

学校図書館は、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備」(学校図書館法第1条より)と単独法に規定されながら、それがとても教育社会界に認識されているとは言えない学校図書館の現状に、一石を投じるべく著されたのが本書である。学校図書館が欠くことのないできない基礎的な設備であるという認識を共有し、それが実体をもつことで学校教育は豊かになる。それが著者の本書を通したメッセージである(はじめにより)。

本書は7章構成となっている。以下、特に興味をもったところを拾いながら簡単に解説する。

第1章「学校に図書館を設置すること」は日本の教育界の歴史に触れながら、なぜ学校図書館が学図法に必置とされる設備となっているかを説明している。

第2章「高まる学校図書館への期待」では日本の学校図書館の転機となるとする93年とその前後についての流れから、現在にいたる学校図書館の事情までの流れを追っている。93年は「学校図書館図書整備5か年計画」始動の年であり「学校図書館図書標準」設定の年でもある。塩見氏が指摘するのは、これには80年代から始まる「自ら学び、自ら考える」学習の重視の流れから来ているということと、「学校図書館の現場で学校司書の実践が積み上げられ、当事者からの積極的な発信があったこと」の重要さ、である。後者の例として塩見氏は岡山市学校図書館充実運動を取り上げている。
「人がいる学校図書館のよさ」を積極的に発信するこの取り組みは、今なお続く学校図書館界の運動の走りとなっており、非常に面白い指摘だと思われた。

第3章「図書館のはたらきを備える学校」では、(学校図書館に人がいて)図書室でなく図書館として機能することで学校が活きるという説を突き詰めていく。

第4章「学校図書館の教育力」と第5章「教育力の7項目を個別にみる」では、著者が提起する学校図書館のもつ教育力7項目を挙げ、その関連と具体的な解説を行っている。
著者の言う「学校図書館の教育力」は以下の通りとなっている。

  1. 知的好奇心を刺激する多様な学習資源の選択可能性――個が自由に選択する学習内容の重視と広がり
  2. 体系的、組織的なコレクションの存在――学びの系統性の自覚と、未知のこと、知るべきことの多いことの発見
  3. 個別の要求、ニーズに即したサービスとしての相談・援助の仕組み――図書館の専門スタッフによって提供されるサービスに込められた教育性
  4. どこまでも所要のものを探求できる組織性(ネットワーク)の具備――知の世界の連環と探求の可能性を裏付ける図書館ネットワークの力
  5. 資料・情報のコントロール、再構成、そして発信――ニーズにそった付加価値を生みだし、共有から創造・交流・発信へ
  6. 知的自由、プライバシーの尊重――学校が一般的に備える価値観、文化との乖離も生まれがちだが、学校文化の覚醒にも?
  7. 学び方、学ぶ力(リテラシー)を身に付けた生涯学習者の育成――図書館を使いこなせる情報への主体的な生き方を生涯の生きる力に

*以上、本書74pより

一読して、いずれも学校図書館のもつ教育力として納得のいくところではなかろうか。5章では7項目それぞれの解説が行われるが、実際の現場の実践事例とその写真がふんだんに取り入れられており、少し遠回りながら、なかなかにおもしろい構成となっている。

第6章「教育力を活かせる要件」では、上記の学校図書館の教育力が活かされるために必要な要件を見る。例えば、教師の真摯な教育実践の存在(→必然的に図書館の存在と機能が必要となる)や、連携協力先となる地域の公立図書館の存在などが挙げられている。

第7章「これからの学校づくりと学校図書館――教育力を活かした学校図書館づくり 課題と展望」ではこれからの学校図書館の課題が挙げられる。著者が最大の懸案課題としているのは学校図書館専門職員の制度設計と配置の問題であり、法制化されながらも政治的な妥協からまだまだ問題の山積する学校司書の位置づけ、また司書教諭との二職種並置となった今、その関係・協力のかたちとは何なのかということである。二職種の関わり方にかんしてはいろいろな意見があるが、著者の意見はこれまでの職制という点から見てなかなかに現実的な指摘だと思われた。

本書を読んでみて思うのは、やはり同著者の『日本学校図書館史』を読んでおいた方が理解が進んだだろうなということ。作中何度もその名が出てくるので、まだ未読なのが惜しいところである(なかなか手に入らなくて困る)。
学校図書館への学校司書全校配置のために「学校教育の充実に確実につながることを実証する実践を一層広くつくり出す」という四十年以上続く手段が今なお有効であるのか、私にはわからない。2014年の学図法改正がその成功事例なのかも意見が分かれるところなのは重々承知だが、それでも魂を込めて職務をこなす学校司書・司書教諭たちの日々の実践を見ていて応援したくなる気持ちは、私にもわかる気がする。