読書記録『図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供へ向けて』

図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供へ向けて

図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供へ向けて

「障害者の権利に関する条約」、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」を受けて公的機関で義務付けられることとなった「合理的配慮」。合理的配慮の提供に向けて図書館のアクセシビリティを向上させるため、これまでに図書館で行われてきた障害者サービスなどを例にとって解説していくのが本書である。もちろん図書館の利用に「対する」障害への対応が図書館のアクセシビリティ向上に欠かせないのであって、図書館が近隣にない人や、高齢者へのサービスの充実も重要であることが述べられている。

本書の執筆担当は編者の2人以外にも15人おり、それぞれの障害者サービス提供者の事例報告なども多く含まれている。まず第1章は図書館のアクセシビリティに関する基礎編として、その考え方、各館種・施設の現状、歴史(公共図書館点字図書館中心)、関係法令の解説が行われる。歴史の解説は第二次大戦前後のもので、個人的に知らないところが多く興味深かった。また法令(障害者差別解消法、著作権法ほか)の解説は関係の深い部分を細かく解説しているため、あまり把握できていないという人には有用な項と言えるだろう。
第2章は図書館資料、第3章は図書館施設・設備、第4章は図書館サービス、第5章は「関わる人」、とそれぞれにおいてアクセシビリティ向上に向けた各論となっている。それぞれ章を分けるなど簡単な解説・事例紹介に止めていないところが特筆に値する。特に2章の図書館資料と3章の設備の解説は、名前だけ知っていてよくわからない、という人の多いDAISYや各種機器の写真入り解説が入っていて初学者の理解が進むものと思われる。
第6章は国会図書館からスタートする各館種・施設の事例紹介となる。いずれも先進的なサービスを行っているところばかりだが、作中参照される各種データを見る限り、ここに載っていない図書館の事例はどこも惨憺たるものなのかもしれない(自館および自身の自戒を込めて)。

「おわりに」には今後の(図書館のアクセシビリティの向上に向けた)課題として5つが挙げられている。個人的にはその中の1つ、組織体制・予算のことが最も難しいように思われた。図書館資料費の減額などが進む中、新たな(というか今まで等閑視してきた)サービスにどれだけのお金を振り分けることができるだろうか。自分の住んでいる自治体の財政を考えた時、本当に切り詰めなどの大事さを痛感している。
そしてもう1つ印象に残ったのが以下の一文である。

すべての人には、等しく図書館を利用する権利がある。利用者が遠慮する必要はない。遠慮させる雰囲気を醸し出している図書館があったとするならば、それこそ図書館側のバリアである。(本書180p おわりに「(1)意識や理解」)

私がもし当事者だったら遠慮してしまうのではないか。本書を読みながらずっとそう考えていたが、提供者側がそんなことを思っていてはそもそも話にならないだろう。


そして最後に印象に残った言葉をもうひとつ。千葉市中央図書館の大川和彦氏の(文脈を無視して申し訳ないが)言葉がある。

「何から手を付けたらよいかわからないという話をよく聞きますが、とりあえず、できることから始めてもらえたら良いと思います。担当者は普通3〜4年で異動になってしまうという現実がありますが、その期間、熱い気持ちで学んで取り組めば、ガラッと変わりますよ」(本書106p 第5章「図書館のアクセシビリティに関わる「人」をめぐって」5.1.2「職員の事例」より)

お金の問題など、挙げ始めればキリがない。何でもやればいいというものでもない。だが、熱心に取り組むからこそ変わることもあるのだと改めて感じることができた。

ちなみに巻末には資料として本書で出てきた関係法令(抄録あり)などが掲載されている。