読書記録『図書館ノート 沖縄から「図書館の自由」を考える』

図書館問題研究会発行の『みんなの図書館』に2011年1月号〜2016年3月号の間連載していた記事「図書館ノート」をまとめたエッセイ。全52回のうち30回を収録している。
第1部から第4部に分かれており、第1部が図書館と沖縄に関わる「沖縄ノート」、第2部と第3部がそれぞれ「利用者の秘密を守る」、「資料収集・提供の自由を有する」に該当する図書館の「自由ノート」、第4部が軽めの文章ながら評判の良かった「読書ノート」となっており、それぞれ6つか8つの記事が割り振られている。また図書館の自由委員会委員長の西河内蘘泰氏に意見を聞くコーナーが見開き2ページ計6ページ収録されている。
まえがきによると、『みんなの図書館』編集部には「沖縄について書いてくれ」と言われていたらしい。しかし「自信がなかった」らしく、結果的にいろんなテーマに言及している。
エッセイという形式ゆえどれも明確な答えにたどり着くまでとことん追求するといった内容にはなっていないが、それぞれ扱っているテーマが幅広く、今まで考えたことのなかったような事実を提示されて何度もはっとする経験を得られた。著者の沖縄国際大・山口真也さんと言えば学校図書館界で有名だが、取り扱っているのは「司書・司書教諭課程を教えていて思ったこと」、「公共図書館と沖縄の歴史」、「大学図書館と選書フェア」など特定の館種に偏っておらず、図書館業界人ならば読者を選ばない。以下、各部で特に印象に残ったものを挙げていく。

第1部

2回にわたって取り上げられている「沖縄の高校生が『図書館戦争』を読んだら」が特に印象的だった。山口さんの所属する大学では、AOや推薦入試の合格者に「課題図書を読んで感想文を書く」という入学前課題が与えられるという。『図書館戦争』シリーズ(有川浩著)と言えばラブコメ調の強い作品だが、「表現規制」や「表現の自由を守るために武装」など、現職の図書館員として考えさせられるテーマも多い。著者は『図書館戦争』を課題図書に指定している「隠れた意図」を語っているのだが、それは「普天間基地のすぐ近くに位置する沖縄国際大学へ入学する沖縄の高校生たちは、「戦闘、戦争」という素材を用いた小説をどう読むか」であるとのこと。沖縄という戦争を今も深く印象付けられる土地で「図書館を語る」視点は、この本の大きな特徴だと思われる。
また、「沖縄のことを書いてください」は読んでいて特に胸が痛んだもののひとつ。「沖縄の小中学校は学校司書の全校配置が実現している」というのは業界人によく知られた話だが、このことを指して沖縄は「うらやましい」と言われることがあるらしい。学校図書館史で「日本の学校図書館は占領期にアメリカから大きな影響を受けた」という研究はよく見かけるが、それとは別に「アメリカに長く占領された沖縄は特にその影響が大きく、全校配置はそのためではないか。アメリカのおかげ」と言う業界人もいるとのこと。「アメリカのおかげ」とはどこまでも無神経な人がいるものだと思うが、これも沖縄という土地の立場を踏まえていないから出てくる言葉なのだろう。

第2部

「本を借りたら一ポイント? 量目的化する読書指導」は当時話題になっていた武雄図書館について触れている。本を借りればTポイントカードのポイントがもらえると話題になっていたが、これは多く借りるほど得をするという(主に学校図書館で行われている)「多読賞表彰」ととてもよく似ている。私も武雄のTポイントの件を最初に聞いた時、すぐにこのことが頭に浮かんだ。

第3部

アンネの日記』や『はだしのゲン』『絶歌』など、まだ記憶に新しい図書館にまつわる問題に多く触れられている第3部だが、特に(お恥ずかしながら)驚いたのが「「健全な教養」と「不健全な教養」 寺門ジモン的図書館用語」だった。公共図書館に関わる図書館法の第二条には「その教養……に資することを目的とする」とあるが、その学校図書館版の学校図書館法の第二条では「児童又は生徒の健全な教養を育成すること」と定められている。この「健全な」のある・なしを巡る記事なのだが、この「健全な」というキーワードを今まで私は殆ど意識したことがなかった。

第4部

小ネタ集だが、同じ疑問を持っていた人間として「全国OPAC分布考 オーパックなのか? オパックなのか?」を挙げたい。私は前者で、後者で呼ぶ人はあまり見たことがないが、一定の説明をして一応の納得をさせてくれたことに感謝したい。


エッセイということでとにかく読みやすかった。普段図書館に関する本をなかなか読まないという人でも気軽に読めるのではないだろうか。多くのテーマは決して「軽く」はないが、知っているだけで価値のある情報も多いと思われる。