読書記録『認知症予防におすすめ図書館活用術』

あまりにも久しぶりの更新となる。体力も回復してきたし、そろそろこちらも再開したいと思う。
尤も、ものぐさな私がどこまで記録をつけ続けられるかという根気の問題はあるのだが。

来たるべき認知症人口の増加とそれに連なる種々の問題。これからの認知症社会への対策として「図書館を用いた認知症予防」を提唱し、その具体策を提示しているのがこの本である。
「はじめに」によると、厚生労働省の推測では2025年には認知症患者は700万人に上るとされる。認知症に罹ることによる本人の困難はもちろんだが、徘徊による事故の責任問題、認知症が疑わしい人の運転免許の問題、介護離職問題など、認知症にまつわる問題には周りも無関係ではいられない。本書では、認知症社会への対策としてまず認知症を予防することに主眼を置いている。そこで「なぜ図書館なのか?」という理由について、著者は次の理由を挙げている。

・図書館には知的好奇心を刺激する様々なジャンルの本がある
・映画の上映会や読書会などをはじめ、いろいろなイベントを開催しているので、それらに参加することで脳に良い刺激になる
認知症予防教室などを開くにしても、医療保健施設と比べて堅苦しくなく足を運びやすいのではないか

三者については「認知症予防教室を開いても若年者と男性の参加率が高くないようである」ことにも触れている。

第1章「知っておこう!認知症の基礎知識」では、認知症の種類・その症状と原因について詳しく解説している。認知症の前段階として注目される軽度認知障害(MCI)や社会的認知という新たな認知症による障害の項目にも触れており、前者は認知症の対策において重要なキーワード、後者は認知症に苦しむ人への一層の理解をする上で欠かせない情報となっている。

第2章「やってみよう!図書館で認知症予防」では、図書館での読書による脳の刺激だけに留まらない一連の認知症予防メニューが紹介される。具体的には図書館への行き帰りの早歩きから図書館で本を探す行為によるワーキングメモリーの訓練、図書館でランチするお弁当の用意と食べ方、読み聞かせによる前頭前野の刺激、図書館イベント参加による人との交流などなど。必ずしも図書館でなくてもできることが多いが、それだけ徹底して認知症予防の機会を掲載しているということでもあるし、近隣に図書館がなくあまり足を運べない人にも参考にできる情報が載っているということでもある。

第3章「読んでみよう!五感に響く児童文学」は、五感に響く児童文学五十冊のブックリストとなっている。その五十冊以外にも「五感を働かせながら読むときのポイント」の一例として十一冊の本を紹介し、例文を引いて解説している。余談だが、後者の十一冊の解説文がかなり丁寧で、著者の思い入れを感じる。

第4章「活動報告 図書館で‘ライブリハビリ活動‘」では、ライブリハビリ活動(=ライブラリーでリハビリテーション医療の知見を広め、地域住民の健康づくりに貢献する活動)の一例として、著者が行ってきた図書館における医療健康講座の紹介が行われる。また、15年以上にわたり地域住民を対象にした医療健康講座を開催してきた著者が、参加者の多くを占める「健康に関心のある中高年女性」以外の人の参加率の低さについても考察している。
足腰の衰えに一番最初に直面するのが中高年の女性だからでは、などと素人考えで私は思ってしまったが(確かにそれも一因だろうが)、図書館が会場なら男性参加者の割合が多いことを考えると著者の説の方が正しいように思える。

「社会の高齢化」はどこの自治体のホームページを開いても首長が語っているような全国に例外のない地域の課題である。わかっていながらもまごついてまともに向き合えてこなかった図書館業界に一石を投じる本だなぁというのが読後第一の印象である。もちろん本書が扱うのは「認知症」というその(主要ながら)一側面に過ぎないわけだが、一読すればわかる通りここで書かれている具体策は多くの高齢者医療健康問題への対策に広く通じている。よって高齢人口の増加という地域の課題に直結する一策と言って間違いはないだろう。
各種図書館の蔵書を検索すると、本書は4類より0類に分類されていることが多いようだ。図書館も認知症予防に貢献しなくてはという気概の表れなのかもしれない(どこかのMARCを一斉に買っているだけかもしれないが)。
これは個人的な印象だが、高齢者を対象にした*1図書館イベントなどは効果が見えない(多くは貸出冊数の増加に繋がらないからか)という理由で看過されてきたように思う。取っつきやすいタイトルと表紙イラストで(まず)多くの図書館員がこの本を手に取り、そして読み、少しでも変えていく方法があるのだと知ってもらえるといいと思う。

*1:もちろん著者が対象にしているのは高齢者や健康問題に今現在直面している当事者だけではない。