読書記録『「本の寺子屋」が地方を創る 塩尻市立図書館の挑戦』

「本の寺子屋」が地方を創る 塩尻市立図書館の挑戦

「本の寺子屋」が地方を創る 塩尻市立図書館の挑戦

「本の寺子屋」とは――
塩尻市立図書館が中心となって推進している取り組みで、講演会、講座等のさまざまな事業を通じて、「本」の可能性を考える機会を提供するもの。
地域に生きる市民の生活の中心にもう一度、本を据え直し、読書を習慣化させるための方策を、書き手、作り手、送り手、読み手が共同して創り出そうとする仕掛け。
(本書表紙カバーより)

まちづくりと図書館について関心をもっている、ある大学講師の方から紹介された本。塩尻市の図書館と聞いて思い浮かべるのがやはり内野安彦氏。同館元館長にして著作多数、FMかしま「Dr.ルイスの本のひととき」など活躍を挙げたらキリがない。そんな内野氏ももちろん登場する本書は、企画「本の寺子屋」ができるまでに焦点をあてたドキュメンタリーである。

まず本書の目次をご覧いただきたい。

・まえがき
・口上
・第一章「瞬間の王は死んだ」
・第二章「夜明け前」
・第三章「温泉の湯のような」
・第四章「ご近所を刺激してます」
・執筆余滴「情熱は伝播する 舞台裏から」

さらに細分化した項目もあるのだが、大枠の括りだけ見るとなんのことやらさっぱりわからない章タイトルが続く。そもそもこの本自体が「執筆された方、物書きにでもなるおつもりですか?」と言いたくなるような洒落た文章が続く。なので見知った名前が登場する小説を読んでいるようなおもしさがある。ただ責任者『「信州しおじり 本の寺子屋」研究会』が何の団体で誰が参加していて誰の視点でこの話は書かれているのか、あとがきの最後の最後まで明らかにならない。そこは結構ストレスだった(笑)

第一章では、長野の地に移り住んだ編集者・長田洋一さんの過去の話からスタートし、本作りへの思いが描かれる。また後半では塩尻市立図書館に関する情報が紹介される。
第二章では引き続き長田さん視点で話が進む。安曇野の地へ移り住み、近隣でセミナー講師などを引き受けていた長田さんは、古書店巡りの折、塩尻市立図書館の館長の名前を耳にする。そしてついに塩尻の図書館を訪れ、館長・内野安彦さんと対面する。
第三章では「本の寺子屋」の開始直前までの話となる。偉大なる先人・鳥取県米子市本の学校」との関係にも触れられており、マスコミを巻き込んでだんだんと「本の寺子屋」が注目を浴びていく。
第四章は「本の寺子屋」開催の反応や、一部イベントの内容紹介など。ノンフィクション作家・大下英治さんの講演が特にピックアップされており、刺激的な内容となっている。

以上、かなり雑な紹介である。読み物としても想定されている印象で、内容を事細かに書くことが憚られた。ただ、ひとつだけ言っておくと、この本の良さは「図書館サイドで書かれていない」ということだろう。長田洋一さんをはじめとした本書そして本の寺子屋のキーパーソンそれぞれに注目し、一人ひとりの人物像を順々に描いて行き、本書の形は浮かび上がってくる。そのキーとなる人物は内野さん、伊東直登さん両元館長などのように図書館関係者ばかりではない。それぞれのプレーヤーの思いが綴られ、それらを一つに結実したかたちが「本の寺子屋」となっている。それぞれの目標という名のベクトルが指し示し、そしてひとつに交わるところが(都祁が思うには)「生活の中に本が生み出す可能性」なのかもしれないなぁと思うのである。

個人的でどうでもいい話だが、最近とても嬉しかったレファレンスがある。私の地元にはある有名な一族の歴史が多く残り、個人および団体で研究している方々がいる。その研究成果を自費出版している某団体の本があまりに人気で、現在入手困難となっていた。近隣の図書館も所蔵なし。ILLで取り寄せをするも長くは借りられない。ある利用者に「個人的に買う方法はないだろうか?」と尋ねられ、首を傾げた。そもそも出版数もかなり少ない。冗談で某古本屋ネットワークサイトで検索するとまさかまさか、名も知らぬ地元の古本屋がヒットし、お手頃価格で数冊の在庫をもっていた。理由はわからないものの、なぜかとても嬉しかった。地元の人が出版した地元の歴史の本がとても優秀な出来で、それを地元の利用者がどうしても読みたいと思っていて、それを扱っている地元の古書店があり、それを紹介することができたということ。おそらく嬉しさの原因はそういうことなのだろう。
気付けば「地元の書店(古書店)が儲けてくれるならこんなに良いことはないよ」と、呟いていた。